2011年6月26日日曜日

出:それとわかれ


基礎数学力トレーニング―Nの数学プロジェクト
基礎数学力トレーニング―Nの数学プロジェクト』(根上生也、中本敦浩、日本評論社)

スポーツでいうところの基礎体力にあたるものが数学にもある。
その「基礎数学力」を鍛えよう、というのが本書の趣旨だ。
それは計算力みたいなものではなく、「見てそれとわかる」力だ。
公式を暗記して適用する受験数学ではなく、「だいたいわかり」の数学だ。

なんだか、悪名高いゆとり教育っぽい。
だが、それこそが真の数学力を養う道だというのだから、
ゆとり教育は理想の教育でもあったのだろう。
円周率、ときには3で十分だ。


基礎体力については、走ることによって走力や持久力が、
筋トレによって筋力がつくというふうにわかりやすい。
だが、数学基礎力は・・・
この本を読み終われば多少基礎数学力がついたような気がするが、
それが何なのかはまだよくわからない。
基礎であるからには継続が大事なはずだが、本書のあと、どこに向かえば
継続的に基礎数学力を鍛えられるのか。
離散数学の中に、そういう問題が多い、とは示唆されているが・・・

何はともあれ、子供を数学嫌いにしないためのヒントが詰まった本であり、
末永く参考にしていくことになるだろう。

読了指数
今回:+1
合計:-48

2011年6月14日火曜日

出:思いは届かず


原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書)
原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書)

流行りの「なぜ本」の走りか。
そんな軽い位置づけで済ませていい本ではない。

原子力に携わる技術者達の無思想ぶりを批判する。
国が作ったシステムで安全を確保するという発想ではなく、
現場の人間一人一人が安全意識を持つ、真の安全文化が必要と言う。

著者は、原子力最後の日を見届けることなく、この本を最後のメッセージとして亡くなった。
それを残念がっていたようだが、さて、生きてこの福島の原発事故を見たなら
どう思っただろう。


やはり人間に原子力を使いこなすのは無理だ。
特に、立地的にも精神的にも日本人には無理だ。

この期に及んでもマスコミで原発推進の発言を繰り返す輩がいる。
主に年寄りだ。
判断力が弱っているのか、考えに柔軟性がなくなっているのか、
何なのかはわからない。
原発が爆発しようがしまいがどうせもうすぐ死ぬ彼らが
そういうことを言うのはちょっと無責任じゃないのか。
というようなことを、電気なしには誰にも伝えられないオレが言うのもまた
無責任なのではあるが。

読了指数
今回:+1
合計:-49

2011年6月4日土曜日

出:警告は発せられた


大地動乱の時代―地震学者は警告する (岩波新書)
大地動乱の時代―地震学者は警告する』(石橋克彦、岩波新書)

地震や震災に関する研究ほど、総合的な学問はない。
最近の観測データはあるにしても、地面の下を見ることはできないから、どこまで行っても推測が入る。
何百年も昔に関してはデータもないから、震災の文献から被害状況を調べて震度やマグニチュードを推定するしかない。
あらゆる科学的知見に加えて文科系の仕事も重要であって、それらの膨大な知識を詰め込んだ上で将来の地震の予知をするのだが、なにぶんにもまだまだ全然わからないことだらけだ。

要するに非常に難しい学問であって、イタリアのほうで地震を予知できなかったといって地震学者が訴えられたらしいが、そいつは酷というものだ。

なんといっても本書で重要なのは、東京一極集中に対する警告だ。
坂本タクマも長年それを警戒している。
東京のたくさんの人材と一緒に坂本タクマも失われてしまっては国家の損失は計り知れないと思い、地方に暮らしている。
それが地震県・宮城であるのは何とも不合理で、3・11で先に被災してしまったのは皮肉ではあるが。

警告は発せられている。
首都圏が大震災に襲われるのは避けようのないことであって、それはいつ起こってもおかしくない。
一刻も早く人口集中を解消しなければならないとこの本は言っているし、政治の世界でも議論されてきた。
しかし地方に分散するどころか、ますます首都圏に集中している。
日本人は日本の抱えるリスクをあまり理解していないように思える。

阪神や東北で先に大地震が起こったのはまだ幸いだったのかも知れない。
ここで得られた様々な教訓を、絶対に来る首都圏大地震のために生かすことができなければ、日本の滅びは近い。

手始めに大手出版社あたりが首都圏脱出の英断を下してもいいのではないか。

読了指数
今回:+1
合計:-50