2019年7月3日水曜日

出:ゲームを作るというゲーム




ボードゲーム デザイナー ガイドブック 〜ボードゲーム デザイナーを目指す人への実践的なアドバイス』(トム・ヴェルネック【著】、小野卓也【訳】、スモール出版)

子供とよくボードゲームをする。
これまでに遊んだのは、Dixit、カルカソンヌ、カタン、パンデミックなど。スタンダードなものばかりだ。さすがに売れてる傑作ゲームだけあって、子供達の食い付きもよい。

遊びがデジタルに傾きすぎた反動なのか、アナログゲームで遊ぶ人が増えているらしい。
確かにこれは面白い世界だ。
よくできたゲームが毎年たくさん出てくる。人間がボードゲームで遊び始めてから何千年もたつのに、いまだに驚くようなアディアが出てくるのに驚く。

そんなボードゲーム業界の内情が知りたくて、そして、自分でも作れるかも、とちょっと思って、この本を手にした。
自分で作るという目論見は、すぐに打ち砕かれた。

この本の目玉は、テストプレーヤーへの質問リストと、デザイナーの自己評価リストだ。
とにかくテストプレーをして、改善していくことが強調されている。
ちょっとでもルールを変えたらテストプレー、プレーヤーの感想を参考にまた改善、ということを何度も何度も繰り返す。
ゴリゴリのゲーマーだけでなく、初心者などいろんな人を入れて試す。
プレー可能なすべての人数(2~4人なら2人、3人、4人)で試す。
こうして、面白さを追求すると同時に、デザイナーが思いもしなかった破天荒なプレーによってゲームが破綻しないかをチェックする。
気が遠くなる。
この作業自体が、終わりのないゲームのようだ。

ルールはできるだけ簡単で、その場ですぐ始められるものにする。しかも、起こりうる状況をすべて網羅している必要がある。それでいて結果が運に左右されすぎず、戦略性を持たせなければならない。
同時には達成困難ないくつもの項目に折り合いをつけていく。
そうした長い長い過程を経てもなお、最初のアイディアが輝きを失わなかったときに、傑作が生まれるんじゃないかと思う。

作る過程を趣味として楽しむならともかく、売れるゲームを作ろうなどという野望には、おいそれと手を染めるものではないな。


この本で、ひとつハッとさせられたところがある。

チェスがもし今日発明されたとしたら、市場に出る見込みはほとんどないだろうと関係者はいう。」(p.68)

その理由は、ゲーム編集者がそのアイディアを販売員や消費者に伝えるのが難しいから。業界人同士でさえ伝えるのが難しいのなら、プレーヤー同士が教えあうのも当然難しいだろう。
それじゃあ売れない、広まらない。

チェスがダメなら、当然将棋もダメだろう。囲碁も多分ダメだろう。覚えることが世界一多い(個人の感想)麻雀なんか、もってのほかだろう。

うちの子供達にも、一応囲碁や将棋は教えたのだが、食い付きは悪かった。
いつまでたっても、何をしたらいいのかわからない、とにかくなんだかわからない、という感じなのだ。
うちの居間では親父がよくCSの麻雀番組を見ていて、それが子供達の目にも入っている。地上波の歌番組に小柳ルミ子が出てるのを見て「あ!!麻雀の人だ!!なんで歌ってんの?」というほどには見ているのだが、麻雀はまったく理解していない。見ているだけでわかるものではないようだ。オレも、あまりにめんどくさいので教えていない。

それに対して、最初に挙げたようなボードゲームは箱を開けたその日から面白い面白い言って夢中になるのだから、親としても買った甲斐があるというものだ。

遊び同士がユーザーの時間を奪い合う中で、長い歴史を誇る盤上・卓上遊技といえども伝統にあぐらをかいていたらヤバい。
プロ棋士のみなさんが熱心に普及活動を行うのも、そういう危機感があるからなんだと、この本を読んで思った次第である。


ただ、じゃあなんで、チェスや囲碁・将棋は長い年月を経ても生き残っているのか、とも思う。
100年後、今出回っている新しいボードゲームのほとんどはなくなっているだろうが、チェスや囲碁や将棋が消えるとは思えない。
なぜか?それは、現代のボードゲーム作家にこそ考えて欲しい問いである。

読了指数
今回:+1
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