2020年4月18日土曜日

出::政治家必読




群衆心理(ギュスターヴ・ル・ボン、櫻井成夫・訳、講談社学芸文庫)

今ほど、群集心理がはっきり見えるときはない。
新型コロナウイルスの蔓延に伴って、様々な噂やデマが流れた。
トイレットペーパーがなくなる、という情報は完全にデマだったが、
信じた人が買いだめに走り、それを見た人がつられて買い、
という状況が報じられるとさらに人が店に殺到し、
本当に棚から消えた。あっという間に。
報道では「なくなることはないですから冷静に」と
呼びかけていたが、効き目は薄かった。

一人一人は知的で理性的なな人々も、
寄り集まってある条件により群集と化すと、
完全にバカになって同じ方向に走り出す。
理屈は通用しない。
相場本によく書いてあることだが、
120年も前にこの古典が指摘している。
本当に一箇所に集まる必要はない。
地理的に離れていても、群集にはなり得る。
今や世界中がひとつの群集だ。

群集は指導者を欲する。
このあたりから、本書は政治色jが濃い。
フランス革命の英雄にして大罪人、ロベスピエールやナポレオンが
俎上に載せられる。
読んでいると、現代のあの人やあの人のことを
言っているんじゃないかと思えてくる。

指導者には明晰な頭脳など必要ない、
そんなものは群集を導く上では邪魔になるだけだ。

「指導者は、特に狂気とすれすれのところにいる興奮した人や、半狂人の中から排出する。」

オレではない、著者のル・ボンが言っている。
しかし、あの人やこの人のことじゃ・・・・

民主主義って大丈夫なのか、と思わざるを得ない昨今だが、
この本を読むとますますその感が強くなる。
群集たる選挙人を籠絡するのに、候補者が備えるべきなのは「威厳」であって、
能力面は関係ないらしい。
その上で、選挙人には、途方もない、ウソとしか言いようのない約束をも躊躇なくする。
さらに、

「反対派の候補者については、これが、とんでもない破廉恥漢であって、幾多犯罪を犯した事実を知らぬ者はないということを、断言と反復と感染の手段によって、人々の頭に植付けて、相手を粉砕すべく努めなければならない。もちろん、その証拠らしいものを何ら探し求める必要はない。」

オレじゃない、ルボンルボン。
いやしかし、本当にこういう手法でもって、半狂人が
選挙に通っちゃってることがあるんじゃないのか?え?
100年以上前に書かれたにも関わらず、あんな人やこんな人の出現を
預言しているかのようで空恐ろしい。

ただ、ル・ボンは群集の負の側面だけを書いているわけではない。
群集の力は、ときにとてつもない偉業を成し遂げる。
革命もそのひとつだろうし、ウイルスに打ち勝つのも、
群集の力なくしては難しいだろう。

現代の基準からいったら決めつけが過ぎるんじゃないか
と思えるところもあるが、
心理学や社会学の礎を築いた本のひとつであり名著であることは間違いない。
自分が危険な群集の一員と化さないためにも、座右に。

読了指数
今回:+1
合計:-116