2012年10月21日日曜日

出:歴史科学の方法


文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
銃・病原菌・鉄 (上)』(ジャレド・ダイアモンド、草思社文庫)

文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
銃・病原菌・鉄 (下)』(ジャレド・ダイアモンド、草思社文庫)

大変興味深い。
「なぜシマウマは家畜にならなかったのか」という一章だけをとっても興味深い。
出版社によってはうっかりこれをタイトルにしかねないところだ。

むろんシマウマの話などはほんの一部、
本書は1万3000年にも及ぶ人類の軌跡の物語だ。

同じ地球上なのに、どうして地域によってこんなに格差が広がってしまったのか。
その問いに、得られる限りの証拠を引っ張り出して論理的に答えていく。
読み終わると、人種差別なんてものがいかにくだらないかということが
身にしみてわかるようになっている。

たまたま食料生産をはやめに始められる地理的条件が整っていたおかげで
人口密度の高い社会を作り得たから、
ヨーロッパ人は他の大陸にまで進出して先住民を追いやることができたのだ、
ということなんだけれども、
日本国内を見ても似たような現象はとっくに起きている。

人口密度の異常に高い東京圏が突出して繁栄し、
他にいくつかまあまあ栄えている都市があるだけで、
あとは全部疲弊し、衰亡に向かっている。
人口密度に支えられた東京資本が地方に進出し、
地元資本を滅ぼしていく。
いい悪いではなく、これもまた社会科学的に見れば
起こるべくして起こっていることではある。

歴史を科学的に検証するというのが本書のミソだ。
科学といっても実験するわけにはいかないから
いろんな証拠を観察して積み上げていくしかない。
例えば地震学なんかでもほぼそういう研究の仕方なんだろうけれども、
なんといっても相場研究がそれだ。

研究によってある傾向があるのは見つけられるけれども、
100%当たる法則を導くのは無理だ。
多くの科学分野がそうなんだと知ると、ちょっとほっとする。
そして、この著者のような知性が本気で相場を研究したらどうなるんだろうと
詮無いことを考える。

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