2018年8月17日金曜日

出:歴史のチクリ


ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) (新潮文庫)
『ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下)』(塩野七生、新潮文庫)

有名なポエニ戦争の巻。
ポエニ戦争といえば、高校の世界史では、第1次、第2次、第3次、カルタゴ、ハンニバルとスキピオ、象を連れたアルプス越え、カンネーの戦いとザマの戦い、といった事項を ざーっと習ったあと、穴埋め問題などを解いて知識の定着をはかり、忘れたらまた繰り返したりしてゴリゴリとドリルしていく、というような学習をするのが一般的かと思う。
しかし、そんなんじゃハンニバルの恐ろしさもスキピオのスター性もわからない。本書のように詳しく、なんならポエニ戦争だけで普通の教科書1冊ぶんくらいの文字数を使って、たくさんのエピソードを重ね、登場人物達の気持ちなんかも交えながら、たっぷりと語ることによって、ようやく生き生きとした人物像が浮かんでくるのだ。

こういう仕事に対しては、全国の世界史教師があこがれてるんじゃないかと思う。
大概の先生は、ハンニバルのアルプス越えくらいは面白く語るサービスをしてくれると思うが、それ以上語っているといろいろ間に合わなくなるので、我慢して端折ってどんどん先に進んでるんじゃないだろうか。
オレが習った先生は我慢できない質で、面白いところは大体全部面白く語っちゃうもんだから、最終的には時間が足りなくて補講になったと記憶している。そのおかげで世界史が好きにはなったが、ゴリゴリドリルが苦手で成績は今ひとつだった。

この本は多分、一切我慢をしていない。大好きなローマ史をとことん語っている。そらあ、面白いに決まっている。
ハートに届くぶん、記憶にも残りやすい。限られた事項を、覚えるまで繰り返しドリルするほうが確かに効率的かも知れないが、それは圧倒的に苦しくつまらない。
どんなジャンルの本でも、コンパクトに要点だけが述べられたものよりも、多少冗長でも、難しいところも含めて細部まで詳しく説明してある本のほうが、結局はよく理解できることが多い。 初期の投資時間は多くかかるが、一生のスパンで考えればそっちのほうが有意義だ。

昔攻略しきれなかった世界史をいつかものにしようというあこがれはずっとあって、春頃から思い立って勉強をはじめたものの、ローマのあたりまで来たところでこの本のことを思いだし、いったんお勉強を休んでちょっと寄り道するつもりで読み始めたところ、文庫本で5冊目まで来てしまって、寄り道どころかこっちが本筋になりそうな勢いだ。

ただし、こういう本が読めているのは昔ドリルしたおかげも多分にあるようだから、お勉強にもちゃんとした意義がある。大体広く浅く、ところにより限りなく深く、でよいだろう。


それで、これまでに学んだことからひとつ気付いたのは、軍事的な天才は晩年がけっこう惨めだ、ということだ。ハンニバルもスキピオも、その輝かしい戦歴に比べれば、最期は寂しい。『項羽と劉邦』の韓信もいやな死に方だった。歴史を読んでいてチクリとするところである。

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