2011年5月16日月曜日

出:勝者などいない


原子炉時限爆弾
原子炉時限爆弾』(広瀬隆、ダイヤモンド社)

広瀬隆は、勝ったのだ。

広瀬隆について坂本タクマは、
「長年原発に文句を言ってるけどあんまり相手にされていない変なオッサン」
くらいの認識しかなかった。
あんな本を読んでいるのは危ないやつだとさえ思っていた。
しかし。

広瀬隆は、勝ったのだ。

相場の世界にも、常に大崩落を警告している人がいて、
それは時たま当たるのだ。
だって、相場に大崩落はつきものだから。

まさか日本の原発で、そんな大崩落が起きるとは。
こんなに危険なものだったなんて、知らなかった、知らされていなかった。
恥ずかしいやら腹立たしいやら。

その程度の知識であるから、
この本が、福島の事故のまさに直前と言っていい2010年8月に刊行されていたことに
度肝を抜かれた。
わかっている人、ちゃんと調べている人には、
十分に予想できた惨事だということか。
地震国日本の原発には様々なリスクが存在し、
人間ごときには制御不能だと。

しかも、本書で最も危険性を強調している浜岡原発は、
首相の判断に従って停止された。
これもまた、大戦果だ。


だが、広瀬隆はまったく勝ったとは思っていないだろう。
福島のような事故を防ぐことが最大の目標だったわけだから。
原発反対派の人達すべてに敗北感があるだろうし、
本当の戦いはこれからだと思っているだろう。
最終的には勝つも負けるもない。


本書のような扇情的な書き方は、
今読めばかなりの説得力があるが、
福島以前にどれほど人の心に届いたかは疑問だ。
煽れば煽るほどスーッと冷めていく。

しかしどうやれば平和に浸りきった我々に
迫り来る惨禍を伝えることができただろう。
我々は、いっぺん思い知るしかなかったのだろうか。

なにしろもう二度とごめんだ。

読了指数
今回:+1
合計:-50