2011年5月10日火曜日

出:地味な巨人



確率論と私
確率論と私』(伊藤清、岩波書店)

数学は、現実から出て理論を発展させ、再び現実に戻る。
物理学などの現実の現象を記述するために数学が導入され、
それが理論を突き詰めていく間に純粋数学になっていく。
そしてあるとき、その理論がまたより複雑な現実に対応するため利用される。
これが数学の発展の歴史だという。

ギャンブルを数学的に研究するために始まった確率論が、
伊藤らの手を経て現代数学として発展した後、
金融工学に応用されるようになった。
「伊藤の公式」といえば、ウォール街では有名だ。

伊藤自身は、株はおろか定期預金も利用したこともないほど
金融取引とは無縁の人生だった。
そしてアメリカを中心に数学を学んだ者が金融工学に身を投じ、
日々巨額のマネーを動かして、ある者は大成功し、ある者は破滅するという状況を
憂えていた。
その懸念はリーマンショックで現実のものとなった。
さすがの慧眼である。

本書は、数学に関するまじめな考察と、
他の数学者との交流などを記しており、
金融工学を実際に使っている連中のような派手さは一切ない。
確率論を研究しながら、博打の臭いがまったくしない。
恐るべき偉人としか言いようがない。

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