2012年7月12日木曜日

出:ドローイング・マラソン


The Natural Way to Draw: A Working Plan for Art Study
The Natural Way to Draw』(Kimon Nicolaides・著、Houghton Mifflin)

名著だ。

表紙には、
「ドローイングのhow-to本として最高なだけでなく、
あらゆる分野をひっくるめても最高のhow-to本」
とか書いてある。

漫画の描き方から株取引の方法まで、
人生で重要なことはほとんどhow-to本で学んできた。
how-to本はたくさん読んだが、この本は他のどれとも違っている。

なにしろ「教えすぎない」ことに重点が置かれている。
必ず前から順番に読み、
言われた通りの練習をいやいやでも何でも四の五の言わずにとにかくやり、
やり終わるまでは次のところを読むな、
というふうに言い渡される。

上のような性質の本であるから詳しいことは言えないのだが、
とにかく言われた通りにやってみた。

まったくやったことも聞いたこともないような練習を次から次へとやらされ、
何だこれは、何の役に立つんだ、とか思っていると、
しばらく進んでから「こういう意味だったのか」とわかる、という感じ。

全然使ったことのない画材、日本ではほとんど手に入らない画材などを次から次へと
用意しなければならない。
近所のイオンの文具売り場やダイソーに日参し、
なるべく安い画材を求め、
よくわからない画材の代替品を探す。

こういったことに、オレはハマった。
ある種の冒険がそこにはあった。
そうして夢中になっているうちに、
とうとう最後まで来てしまった。

なんだか最近絵ばっかり描いている、
しかもわけのわからない絵だ、といって、
家族には不気味がられた。
金も結構かかる。
そして何と言っても時間を食う。

そういった諸々のことを考え合わせると、
子供が今より小さくても大きくてもやりづらかっただろうし、
懐具合や暇さ加減などからも、
オレの人生の中で今をおいて他に
本書を完走できるときはなかったであろう。

本書は、何らかの都合で美術学校に行けなかった人に
学校のような教えを授ける、というコンセプトで書かれているらしいのだが、
やってみて思ったのは、
「学校に行くほうが楽」
ということだ。

画材をいちいち自分で買いに行ったりするのは大変だが、
学校なら必要な画材を必要なだけそろえてくれる。
プロのモデルを自宅に呼ぶ、みたいなスカしたマネは
個人にはなかなかできないが、
学校ではモデル描き放題だ。
今さらながら、行けるもんなら絵の学校に行きたかった、と思うのだった。

とはいえ、画材そろえもゲームの一部として楽しめたし、
モデルは雇えなくても、
家に大量にあって最近まったく開いてなかったポーズ集を活用できたし、
満足のいく体験ではあった。

さて、最後まで読みはしたものの、
やることはまだまだある。
絵は一生かけてやるものであって、
修了したりやめたりするものではない。
たかだか数百時間基礎的な訓練をしたところで、
完成するようなものでもない。

なお、本書には、人間の体はこうなっているとか、
線はどう描くとか、そういう情報はほとんどない。
そういったことは、自分で、失敗したり間違ったりしながら
身につけていくものだ、という考え方なのだろう。
赤ん坊が言葉を覚える過程のようであり、
それこそが"natural way"なのだ。

本書は翻訳もされている。
デッサンの道しるべ』という、まさにぴったりのタイトルだ。
残念ながら出版元が潰れてしまったらしく、
手に入りづらい状況になりつつあるようだ。
惜しいことである。

読了指数
今回:+1
合計:-65

2012年7月9日月曜日

入:オレのことか


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